属人化から抜け出す引き継ぎ設計|エンジニアの転職準備
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

自分にしか触れないシステムやコードを持っている状態は、周囲から頼られる一方で、休暇や異動、転職の判断を遅らせる要因にもなります。評価されている状態を手放すことへの迷いも生まれやすく、何から手をつければよいか分からないまま時間が過ぎることも少なくありません。ここでは、引き継げる形に整える順番を見ていきます。
自分にしか触れない状態から抜け出す道筋は、対象の把握から任せる範囲の決定までの順番を守ることで、無理のない形に整えられます。休暇や異動の判断を遅らせないための順番です。
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この記事のポイント
- 自分にしか触れない状態は、評価される一方で、休暇や異動の判断を遅らせる要因になります
- テレワークを導入している企業は47.3%です*1。働き方の前提が変わっても、属人化した状態を抜け出す道筋は別に整える必要があります
- 抜け出す順番は、対象の把握・手順の言語化・任せる範囲の決定の3段階です
1. 自分にしか触れない状態は、順番を追えば抜け出せます
自分にしか触れない状態から抜け出す道筋は、対象の把握、手順の言語化、任せる範囲の決定という順番で整えることです。テレワークを導入している企業は47.3%です*1。働き方の前提が変わっても、属人化した状態のまま動けないことの影響は残ります。
自分にしかできない仕事を持つことは、評価される場面につながります。頼られる存在であることは、悪いことではありません。
一方で、その状態が続くと、休暇を取りにくくなったり、異動や転職の判断を遅らせたりする面が出てきます。自分が抜けた瞬間に止まる仕事があると、動きにくさは本人の意思と関係なく生まれます。
抜け出すために必要なのは、一気に手放すことではなく、順番を追って整えることです。対象を把握し、手順を言葉にし、任せる範囲を決める。この3段階を踏むことで、無理なく引き継げる形に近づきます。
順番を飛ばして、いきなり任せようとすると、渡された側も戸惑います。まず何を担当しているかを本人が把握するところから、道筋は始まります。
自分にしかできない状態のすべてが、対応すべき問題というわけではありません。得意分野として頼られている場合と、不在時に代わりが利かない場合とでは、性質が異なります。抜け出す順番を考える対象は、後者、つまり本人が不在のときに対応が止まってしまう領域に絞って構いません。
2. 把握から任せるまでは4段階で進みます
最初の段階は、自分が担当している範囲を書き出すことです。頭の中にある担当範囲を、本人以外が見られる形にするところから始まります。
範囲を書き出す際は、本人だけでなく、周囲から見て「この人がいないと止まる仕事」を挙げてもらうと、本人が気づいていない対象が見つかることがあります。
次の段階では、書き出した範囲の手順を、渡せる形に整えます。手順そのものよりも、どこまでが渡せる状態かを本人が把握することが先になります。
3段階目は、渡した手順を一緒にやってみることです。説明しただけでは伝わらない判断の部分が、一緒に行うことで見えてきます。
最後の段階で、実際に任せます。一緒にやる段階を経ているため、任せた後も本人に確認が集中しにくくなります。
4段階は、どれか一つを飛ばすと次の段階が成り立ちにくくなります。範囲が把握できていない状態で手順だけを渡しても、渡された側は全体像を持てません。
次の段階に進む目安は、かけた時間ではなく相手の反応で判断します。範囲を書き出した後、本人以外がその内容を見て違和感なく理解できるかどうかが、手順を渡す段階に進む目安になります。
一緒にやる段階でも同じです。渡された側が、次に何をすればよいかを自分で判断できる場面が増えてきたら、任せる段階に進む合図と捉えられます。
3. 属人化している対象ごとに、渡し方は変わります
自分にしか触れない対象は一つとは限りません。対象ごとに、抜けにくい理由と渡し方を整理します。
属人化している対象の一覧
| 属人化している対象 | 抜けにくい理由 | 渡し方 |
|---|---|---|
| 構成変更の手順 | 手順が本人の頭の中だけにあり、書き起こされていないためです | 実際の変更作業を一緒に行いながら、手順を書き起こします |
| 障害発生時の初動対応 | 判断の基準が経験に基づいており、言葉にされていないためです | 判断の分かれ目を一つずつ挙げて、一緒に確認します |
| 特定の顧客への対応 | これまでの経緯を知っているのが本人だけのためです | 経緯の記録を残し、判断の基準を添えて渡します |
| 古いシステムの改修 | 変更が及ぶ範囲を把握しているのが本人だけのためです | 変更前に、影響が及ぶ範囲を一緒に確認します |
表の4つは、いずれも本人以外が把握していない情報を含んでいる点で共通しています。渡し方はそれぞれ異なりますが、共通するのは一緒に行う場面を設けることです。
構成変更の手順と障害発生時の初動対応は、判断の速さが求められる点が近く、言葉だけで渡すよりも、実際の場面を一緒に経験したほうが伝わりやすくなります。
特定の顧客への対応は、経緯を知っているかどうかが渡し方を左右します。経緯の記録が残っていれば、本人が不在でも判断の材料が残ります。
古いシステムの改修は、影響が及ぶ範囲の把握が渡し方の中心になります。変更前の確認を一緒に行うことで、把握している範囲を渡す側と受け取る側の両方で共有できます。
複数の対象が同時に属人化している場合、すべてを一度に整える必要はありません。発生する頻度が高い対象、あるいは不在時の影響が大きい対象から順に着手すると、限られた時間でも進めやすくなります。
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4. 評価されている状態を手放すことに、迷いが生まれます
自分にしかできないという状態は、周囲からの評価と結びついていることが少なくありません。頼られる立場を手放すことに、抵抗を感じるのは自然なことです。
任せる範囲を決める段階になると、この迷いが表に出やすくなります。渡した後に自分の役割が薄れるのではないかという感覚は、実際に引き継ぎを進める人の多くが向き合う部分です。
ただし、任せる範囲を決めることは、これまで担当してきた範囲を否定することではありません。対象を把握し、手順を言葉にしたうえで任せるのは、次の段階に進むための区切りです。
迷いを解消してから引き継ぎを始める必要はありません。迷いを抱えたまま、対象の把握から順番に進めていくことで、任せる範囲を決める段階に自然にたどり着けます。
任せた後に評価がなくなるわけでもありません。何を担当してきたかに加えて、どう引き継いだかも、周囲から見える行動の一つになります。
手放す対象を選ぶ際は、これまでの担当範囲すべてを一度に見直す必要はありません。任せられる状態が整った部分から、少しずつ区切りをつけていく進め方もあります。
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5. 任せるまでを3段で組み立てます
3段は、下から積み上げる関係にあります。対象の把握ができていなければ、その上の手順の言語化も、任せる範囲の決定も成り立ちません。
途中の段階から引き継ぎに関わる場合でも、その時点でどこまで整っているかを確認すれば、抜けている段階が見えてきます。
頂点の任せる範囲の決定だけを急いで進めると、土台と中段が伴わないまま渡すことになり、渡された側が判断に迷う場面が増えます。
3段のどこにいるかを本人が把握しておくと、引き継ぎがどこまで進んでいるかを、途中でも確認しやすくなります。
任せた後にうまく引き継げていないと分かった場合は、任せる段階から土台に戻って確認し直すこともできます。3段は一方向にしか進めない関係ではありません。
6. 引き継ぎ前に確認する3点で整います
引き継ぎを進める前に、確認しておきたい点を3つに絞ります。
引き継ぎ前に確認する3点
- 影響範囲:変更や対応が及ぶ範囲を、渡す前に一緒に確認します
- 判断の基準:迷ったときに何を基準に判断していたかを言葉にします
- 確認先:分からない点が出たとき、誰に確認すればよいかを決めておきます
3点はいずれも、本人が意識しないまま頭の中だけに留めていることが多い内容です。渡す前にあらためて確認しておくと、引き継ぎ後の戸惑いを減らせます。
影響範囲は、変更や対応がどこまで及ぶかを指します。一緒に確認しておくと、渡された側が自分の判断だけで範囲を広げすぎる場面を避けやすくなります。
判断の基準は、これまで本人が経験に基づいて決めてきた部分です。言葉にしておくことで、次に同じ場面が来たときの拠り所になります。
確認先は、任せた後に本人がいなくても対応できるようにするための項目です。誰に確認すればよいかが決まっていれば、任せた範囲の外にある判断でも止まりにくくなります。
3点を確認する際は、一度にすべてを整理しようとせず、対象ごとに分けて進めると負担が偏りません。表で挙げた対象ごとに、この3点を当てはめて確認する形が実務的です。
対象によっては、3点のうち特に重視すべき項目が異なります。緊急性が高い対象では確認先を、経緯が複雑な対象では判断の基準を、優先的に確認するといった使い分けもできます。
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7. よくある質問(Q&A)
Q1. 属人化した状態は、必ず解消しなければなりませんか。
A. 必ずしもそうとは限りません。ただし、本人が休暇や異動を選びにくい状態が続く場合は、引き継げる形に整えておくと、その後の選択肢が広がります。解消するかどうかは、不在時の影響の大きさを基準に考えられます。
Q2. 引き継ぎは、どこから始めればよいですか。
A. まず、自分が担当している範囲を書き出すところから始めます。範囲が把握できて初めて、手順を言葉にする段階に進めます。書き出す際は、範囲の大小にかかわらず、まず全体を洗い出すことを優先します。
Q3. 手順を言葉にするだけで、引き継ぎは完了しますか。
A. 言葉にした手順を一緒に行い、実際に任せる段階まで進めて、引き継ぎは完了します。言葉にした時点では、引き継ぎの途中です。任せた後もしばらくは確認できる状態を保っておくと、定着の度合いを確かめやすくなります。
Q4. 評価されてきた状態を手放すことに抵抗があります。どう考えればよいですか。
A. 抵抗が生まれるのは自然なことです。任せる範囲を決めることは、担当してきた範囲を否定することではなく、次の段階に進むための区切りと捉えられます。区切りをつけた後も、これまで担当してきた範囲が評価から消えるわけではありません。
8. まとめ:属人化した状態は、土台から積み上げれば手放せます
この記事の要点
- 自分にしか触れない状態は、評価される一方で、休暇や異動の判断を遅らせる要因になります
- 抜け出す順番は、対象の把握、手順の言語化、任せる範囲の決定の3段階です
- 属人化している対象ごとに、抜けにくい理由と渡し方は異なります
- 評価されている状態を手放すことへの迷いは、任せる範囲を決める段階で向き合う点です
- 引き継ぎ前には、影響範囲・判断の基準・確認先の3点を確認しておきます
自分にしか触れない状態から抜け出す道筋は、対象の把握から任せる範囲の決定まで、順番を追って整えることにあります。評価されている状態を手放すことへの迷いも自然なものとして受け止めながら、1段ずつ進めていくと、引き継げる形が見えてきます。複数の対象を抱えている場合も、優先順位をつけながら進めれば、無理なく続けられます。
※公開中の求人数は時期によって変わります。記事中の求人の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 総務省 通信利用動向調査
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