固定残業代の不利益変更|会社が減らすときに要る同意

固定残業代を会社が減らすときは、原則として労働者の同意が要ります。同意を取らずに就業規則を変えて労働者に不利な内容にすることは、労働契約法第9条で原則できません*1。例外は第10条の場合で、周知した就業規則の変更が合理的であることが条件です*1。
不利益変更とは、賃金など労働者に不利になる形で労働条件を変えることです。固定残業代は一定時間分の割増賃金を定額で払う賃金なので*4、減らす話は不利益変更にあたります。同意の有無と就業規則の変更の有無で、会社に求められる条件が変わります。
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監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事のポイント
- 会社と労働者が合意すれば、労働条件は変更できます*1。合意があっても、就業規則に定める労働条件を下回ることはできません*3。
- 合意がないまま就業規則を変えて不利益に変更することは、原則できません*1。例外は、変更後の就業規則の周知と、変更の合理性がそろう場合です*1。
- 労働条件通知書や就業規則の額より少なく払われると、労働基準法第24条違反(賃金の一部不払い)の可能性があります*2。賃金の引下げの相談は、総合労働相談コーナーが無料で受け付けています*5*6。
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1. 固定残業代を減らすには同意か就業規則の変更が要る
会社が固定残業代を減らすには、労働者の合意を得るか、就業規則の変更が労働契約法第10条の条件を満たす必要があります*1。労働者と使用者は、合意によって労働条件を変更できます(第8条)*1。合意がなければ、就業規則の変更で労働条件を不利にすることは原則できません(第9条)*1。第10条の例外には、変更後の就業規則の周知と、変更の合理性の2つが要ります*1。
固定残業代とは、一定時間分までの時間外労働、休日労働、深夜業に対する割増賃金(上乗せして払う賃金)として、定額で支払われる賃金です*4。定額残業手当やみなし残業代と呼ばれることもあります*4。給料の一部にあたるため、額を減らす話は賃金の引下げという労働条件の変更になります。
賃金の引下げや労働条件の不利益変更は、都道府県労働局の個別労働紛争解決制度が対象にする分野です*6。固定残業代の不利益変更も、この分野に含めて相談できます。
減額を言われたら、最初に聞くのは、同意を求めているのか、就業規則を変えたと言っているのかです。前者は第8条の合意の話で、後者は第9条と第10条の話です。
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2. 減額の連絡は同意の話か就業規則の話かで条文が分かれる
固定残業代の減額を会社から言われたときは、同意を求められた場合と、就業規則の変更を告げられた場合で、働く条文が変わります。同意の場合は第8条、就業規則の変更の場合は第9条と第10条です*1。どちらの説明もなく支給額だけが下がっている場合は、別の問題として労働基準法第24条が関わります*2。
同意を求められた場合は、第8条のとおり、労働者と使用者の合意で労働条件を変更できます*1。ただし、合意による変更でも、就業規則に定める労働条件を下回ることはできません*3。就業規則に固定残業代の額が定めてあれば、合意があっても、その額を下回る労働条件にはなりません。
就業規則の変更で減らすと言われた場合は、第9条が出発点です。会社は、労働者の合意がない限り、一方的に就業規則を変更して不利益に労働条件を変更することはできません*3。例外の第10条は、周知と合理性の2つを条件にしています*1。
給料の引き下げが、即座に労働基準法違反になるわけではありません*2。ただし、労働条件通知書や就業規則に明記された額より少なく払われた場合は、労働基準法第24条違反(給料の一部不払い)となる可能性があります*2。
3. 第8条から第10条までに会社へ求められる条件

労働契約法の3つの条文と労働基準法第24条
| 場面 | 条文 | 会社に求められること |
|---|---|---|
| 労働者と合意して変更する | 第8条 | 労働者と使用者の合意。合意しても就業規則の基準は下回れない |
| 合意なしに就業規則を変えて不利益に変更する | 第9条 | 原則できない。第10条の場合だけが例外 |
| 第10条の例外を使う | 第10条 | 周知と合理性の両方 |
| 合理性を見る事情 | 第10条 | 不利益の程度や変更の必要性などの事情に照らして見る |
| 通知書や就業規則の額より少なく払う | 労働基準法第24条 | 賃金の一部不払いにあたる可能性 |
第10条は、就業規則の変更が合理的かどうかを、不利益の程度や変更の必要性などの事情に照らして見ると書いています*1。条文に、割合や金額の基準は書かれていません。
第8条は労働者と会社の合意の話で、第9条と第10条は就業規則の変更の話です。同じ減額でも、どの条文の話なのかによって、会社が示すべきものが違います。
4. 第10条の例外が成り立つ条件と合理性の事情
第10条の例外が働くのは、条件が2つそろったときです。1つ目は、変更後の就業規則を労働者に周知させている(知らせている)こと、2つ目は、就業規則の変更が合理的なものであることです*1。2つのうち1つでも欠けると、第9条の原則に戻ります。
合理的かどうかは、条文が挙げる事情に照らして見ます。1つ目は労働者の受ける不利益の程度、2つ目は労働条件の変更の必要性です。3つ目は変更後の就業規則の内容の相当性、4つ目は労働組合等との交渉の状況で、これらにその他の事情が加わります*1。
固定残業代の不利益変更に当てはめると、会社に尋ねる項目が見えてきます。月にいくら減るのか、なぜ変更が必要なのか、変更後の計算方法はどうなるのか、労働組合等とどんな話し合いをしたのか、の4点です。減る額と変更後の計算方法は、説明を聞いた時点で書面に書き出しておくと、あとで就業規則と並べられます。
第10条には、例外の範囲を狭める但し書きもあります。労働契約で、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として労働者と使用者が合意していた部分には、原則として、この例外が及びません*1。入社時の労働条件通知書に、固定残業代について別の定めがないかも読んでおきます。
労働条件の変更の話が出たときは、まず使用者と話し合います*3。同意を求められたときも、就業規則の変更を伝えられたときも、相談の相手はまず会社です。
5. 減額を言われたときに手元へ置く書類と相談先

固定残業代の金額が、労働基準法第37条などに定められた方法で計算した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払う必要があります*4。固定残業代を払っていても、実際の残業時間が長ければ、不足分は別に払われます。
求人で固定残業代を示すときは、次の3点を明示します*4。1つ目は固定残業代にかかる計算方法、2つ目は固定残業代を除外した基本給の額です。3つ目は、算定基礎となる時間数を超えた時間外労働、休日労働、深夜労働の分の割増賃金を、追加で支払うことです。
平成28年12月のリーフレットにも、固定残業代を除いた基本給の額、計算方法、追加で割増賃金を支払う旨の3点が載っています*7。入社後の固定残業代は、就業規則または労働条件通知書等により明確にしておく必要があります*4。
減額を言われたら、手元の労働条件通知書と就業規則で、固定残業代の額、基本給の額、固定残業の時間数、超過分を追加で払う旨の記載を読みます。会社の新しい提案と並べると、何がいくら変わるのかを自分で数えられます。
労働条件の変更で困ったときの窓口が、総合労働相談コーナーです。解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、あらゆる分野の労働問題を対象にしています*5。労働者と事業主のどちらからの相談も受けています*5。
話し合いで解決しないときは、個別労働紛争解決制度が使えます。都道府県労働局長の助言・指導(会社への働きかけ)や、あっせん(話し合いの仲立ち)につながり、利用は無料です*5*6。対象には、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争が挙がっています*6。
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6. よくある質問
Q1. 賃金の引き下げはすぐに労働基準法違反になりますか
A. すぐに違反になるわけではありません*2。ただし、労働条件通知書や就業規則に明記された額より実際に払われる額が少ない場合は、労働基準法第24条違反(賃金の一部不払い)となる可能性があります*2。
Q2. 同意すれば就業規則より低い固定残業代にもできますか
A. 就業規則に固定残業代の額が定めてあれば、できません。合意による変更でも、就業規則に定める労働条件を下回ることはできません*3。就業規則の額を下げたい会社は、就業規則の変更が第9条と第10条の条件を満たすことも求められます*1。
Q3. 合意なしに就業規則を変えて不利益に変更できるのはどんなときですか
A. 原則としてできません*1。例外は第10条で、周知と合理性の2つがそろうときです。合理的かどうかは、第10条が挙げる事情で判断されます*1。
Q4. 固定残業代が計算上の割増賃金を下回るときはどうなりますか
A. 差額の支払いが必要です*4。固定残業代が、法令どおりに計算した割増賃金の額より少ない場合が、この対象です*4。
Q5. 求人に固定残業代を載せるとき会社は何を明示しますか
A. 計算方法、固定残業代を除いた基本給の額、時間数を超えた分の割増賃金を追加で支払うことの3点です*4。平成28年12月のリーフレットにも、同じ内容の3点が載っています*7。
Q6. 賃金の引下げはどこに相談できますか
A. 総合労働相談コーナーです*5。賃金の引下げもその対象で、労働者も事業主も相談できます*5。さらに、労働局長の助言・指導やあっせんも無料で使えます*6。
7. まとめ:固定残業代の不利益変更で会社に求められること
固定残業代の不利益変更で押さえる点
- 合意があれば労働条件は変更できるが、就業規則の基準は下回れない(第8条)*1*3
- 合意なしに就業規則を変えて不利益に変更することは、原則できない(第9条)*1
- 例外は、変更後の就業規則の周知と変更の合理性がそろう場合(第10条)*1
- 通知書や就業規則の額より少なく払われると、第24条違反の可能性がある*2
- 相談先は総合労働相談コーナーで、利用は無料*5*6
固定残業代の減額を言われたら、同意の話か就業規則の変更の話かを会社に聞きます。労働条件通知書と就業規則の額を手元に置き、総合労働相談コーナーにも相談できます。
※公開中の求人数は時期によって変わります。記事中の求人の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 労働契約法(e-Gov法令検索)
*2 突然の給与カット通告は、労基法に違反しますか?(確かめよう労働条件・厚生労働省)
*3 労働条件の変更(労働契約ポータルサイト・厚生労働省)
*4 固定残業代を支払うこととすれば…(スタートアップ労働条件・厚生労働省)
*5 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
*6 個別労働紛争解決制度(厚生労働省)
*7 固定残業代のリーフレット(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)
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